境界性パーソナリティ障害の治療方法-精神療法の種類と薬物療法、予後-

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      2017/03/10

この記事を読むのにかかる時間: 1030

前回、前々回と境界性パーソナリティ障害の特徴や原因を見てきましたが、今回は『治療』にスポットライトを当ててみていきたいと思います。

境界性パーソナリティ障害の治療の基本は精神療法+状況に応じて薬物治療となっていますが、具体的にどんな精神療法が行われているのかをさっそく見ていきましょう。

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境界性パーソナリティ障害の精神療法

境界性パーソナリティ障害の治療では精神療法が中心で、方法によって違いは出ますが、基本的には長い時間をかけてじっくり行うことが多めです。

ここでは厚生労働省とアメリカの総合病院であるメイヨークリニックが紹介している5つの精神療法について見ていきます。

 

支持的精神療法

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支持的精神療法はうつ病など、ほかの精神疾患の治療にも使われることがあります。

患者さんの訴えに対して良い・悪いといった価値判断をせずに、耳を傾けます

その場の要求を叶えるのではなく、長期的に見て患者さんの回復に必要なアドバイスや励ましをしていくのです。

カウンセリングよりも診察の場面で使われることの多い精神療法と考えてください。

支持的精神療法によって医師との信頼感が生まれ、治療に対する意欲がわく方もいます。

 

認知行動療法・弁証法的行動療法(DBT)

境界性パーソナリティ障害の方は白黒思考や極端な自己評価の低さといった『認知の歪み』を持っています。

この認知の歪みにアプローチして、より生きやすくするための方法が認知行動療法と弁証法的行動療法(DBT)です。

弁証法的行動療法(DBT)は境界性パーソナリティ障害に特化して作られた認知行動療法の一種で、エビデンスも確立されています。

 

弁証法的行動療法は、『マインドフルネス、対人関係のスキル、苦悩の受容、感情の統制』という4つの柱からなっています。

アメリカで生まれた治療ではありますが、『禅』の思想がベースにあったりするので、日本人にはなじみやすい部分があると私は感じました。

通常のプログラムだと週1回の個人面接、週2回のグループ訓練を1年間行うことになります。

 

この弁証法的行動療法ですが、実は日本の医療現場ではまだまだ浸透していません

その原因として考えられるのが費用の問題。

保険診療で弁証法的行動療法を受けると考えると、1人あたり12万円の費用がかかる計算です。[1]

もちろん私たち患者が払う費用はもっと少なくはなりますが、国家の財源の問題から考えても標準的な治療にするのは難しい治療と言えます。

 

STEEPS

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上で挙げた弁証法的行動療法ほどコストがかからず期間も短いという魅力があるのが、『STEEPS』という治療法です。

境界性パーソナリティ障害の方が持つ問題の中でも特に深刻な問題である、『感情のコントロール』という面に着目して作られました。

全20ステップ、1回2時間でグループトレーニングを行うのが基本です。

日本では弁証法的行動療法以上に主催が少ないですが、ワークショップの開催などがあるので、こちらのサイトでチェックしてみてください。

境界性パーソナリティ障害(BPD)のグループ療法(STEPPS)

 

精神分析的心理療法・転移焦点化精神療法

精神分析的心理療法に使われる『精神分析』は数々の心理治療の中でももっとも長い歴史を持っています。

1週間に1回、50分くらいの個人面接を行います。

心に浮かぶことを自由に話し、治療者とセラピストが一緒に心の中について考えていきます。

一般的に『カウンセリング』と言われると、この精神分析的心理療法を思い浮かべる方も多いです。

無意識的な部分に焦点を当てることから、短期間では効果が見られないという欠点があります。

 

精神分析的心理療法自体はさまざまな精神疾患や心の不安・悲しみの対処法として使われますが、それを境界性パーソナリティ障害向けにアレンジしたのが、転移焦点化精神療法というものです。

自分・他人に関する感情・知覚の歪みが起きる心の中をセラピストと一緒に探っていきます。

通常の精神分析的心理療法とは違い、最大週3回、50分ほどの個人面接を受けるのが特徴です。

 

家族療法

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境界性パーソナリティ障害に限らず、パーソナリティ障害と家族(特に親)は切っても切れない関係です。

家族療法は患者だけではなく家族全体を対象として行われる心理療法です。

家族の中の犯人捜しをして責め立てようというわけではありません。

家族が一丸となってパーソナリティ障害の方を支え、同時にほかの家族にとっても安心できる家庭を作るための方法と考えてください。

『家』が『安心できる場所』になることは、家族のどのメンバーにとってもメリットがあります。

精神的な安定を得て、外の世界の疲れを癒し力を回復する場所として家族が機能するような方法が家族療法と言えそうです。

ただし、この家族療法はそもそも治療に至るまでが困難というデメリットがあります。

責められるんじゃないかと思ったり、そもそも家族の問題に関心がなく、家族療法に参加したがらない方も当然います。

 

精神療法まとめ

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ここまで紹介した精神療法について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを簡単にまとめます。

もちろん、境界性パーソナリティ障害の治療をするうえでこれがすべての治療法というわけではないので、参考までに見ていただければと思います。

 

支持的精神療法

・特徴…もっとも一般的に行われている精神療法で傾聴が基本

・メリット…ほとんどの精神科で日常的に提供されている

・デメリット…基礎的な心理療法だが、パーソナリティ障害に特化しているわけではない

 

弁証法的行動療法

・特徴…認知行動療法の一種で、境界性パーソナリティ障害の方に見られがちな問題にアプローチできる

・メリット…境界性パーソナリティ障害治療として確立されている

・デメリット費用が高額で、日本ではなかなか受けられない

※弁証法的行動療法でない認知行動療法は保険適用でなければ受けられる場所が多い

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STEEPS

・特徴…1回2時間、20回のグループトレーニングを通して感情のコントロールを学び、実践する

・メリット…弁証法的行動療法ほど費用がかからず、理解が簡単

・デメリット…日本ではまだあまり広まっていない

 

転移焦点化精神療法

・特徴…1回50分程度の面接を行い、感情や知覚の歪みを精神分析の手法を通して改善していく

・メリット…うまくいけばパーソナリティの偏りだけではなく人生観が根本から変わる

・デメリット…無意識の部分へのアプローチのため、短期間での効果はあまり望めない

 

家族療法

・特徴…問題を個人だけではなく家族単位で考え、家族面接などを行う

・メリット…うまくいけば家族の団結が強まり、『家』が安心できる場所になる

・デメリット…そもそも参加したがらない家族がいる

 

薬物治療について

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境界性パーソナリティ障害の治療では、薬物療法は補助的な意味を持っています。

そもそも境界性パーソナリティ障害だと思って病院に来る方は多くありません。

気分が落ち着かない、人間関係でいつも苦労してそのせいで眠れない…といった問題を抱えて病院にやってきます。

そうなると、精神療法と並行して薬物療法が必要なケースも当然出てきます。

抑うつを抑える薬、感情の起伏を抑える薬、睡眠薬、SSRIなどがよく用いられます。

この辺りは境界性パーソナリティ障害だからこの薬、というのではなく症状によって使い分けられると考えてください。

 


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入院治療の可能性

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入院治療も境界性パーソナリティ障害の治療の選択肢の1つです。

本人が入院を希望する形(任意入院)もありますし、医療関係者が入院が必要と判断して入院する形(強制入院)もあります。

強制的に入院する場合には以下のような事情が考えられます。

・他人を傷つける・暴力をふるう

・自分を傷つける(処方薬の大量服用など)

特に境界性パーソナリティ障害の方の場合は、処方薬の大量服用(OD)には注意が必要と言われています。

基本的に『自分なんか消えてしまえばいい』と思っているので、あらゆる方法で自分を傷つけることをいとわないからです。

最小限の処方にしたり、場合によっては入院して医療関係者が薬を管理した方がよいケースもあります。

また、強制入院についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

強迫性障害の、となっていますがほかのケースでもほぼ同様です。

強迫性障害の患者を強制入院させたい

 

自然軽快・自然治癒の可能性

境界性パーソナリティ障害は若い女性に多いパーソナリティ障害です。

10代中盤ころから20代にかけてがもっとも問題が噴出しやすく、この時期に数々の人間関係のトラブルを経験したり、ひどい自己嫌悪や空虚感を体験する方がほとんどです。

一方で、ある程度年齢を重ねてくると自然に回復していくとも言われています。[2]

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年を取ると脳が老化することで感情の現れ方も鈍くなるというのは、誰でも経験することです。

高校生くらいのときには音楽1つに涙が出るほど感動したり、友達の些細な一言にひどく傷ついたりってことは多くの方にあったと思います。

でも年を取ると映画や音楽で感動はしても、若いころのような瑞々しい、人生を変えるんじゃないか?と思うくらいの感動は少なくなってきますよね。

それと同じで、境界性パーソナリティ障害の方の感情のエネルギーも徐々に少なくなり、それとともに人間関係の問題を引き起こしにくくなるのが一般的です。

ただ、私個人としては若いうちの10年とか15年を自滅的な行動や低い自尊心で過ごすよりも、早く治療を受けたり対策を立てて、より豊かな40代、50代以降にしていくのがよいと思います。

 

予後はどうなの?治療して治るの?

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アメリカを中心として行われているさまざまな研究では、以下のことがわかりました。[3]

・10年間の追跡調査で、境界性パーソナリティ障害患者(外来)の85%は12カ月以上の寛解を達成

・16年間の追跡調査で、境界性パーソナリティ障害患者(追跡開始当時は入院患者)の99%が2年間の寛解を達成

・27年間の追跡調査で92%が境界性パーソナリティ障害の基準を満たさなくなる

時間をかけた治療や年齢を重ねることによって多くの方が日常的な問題を感じにくくなっていくことがわかります。

一方で、16年間の追跡調査をした研究ではこんな結果も出ています。

・16年間の追跡調査での再発率10-36%(他のクラスターBのパーソナリティ障害は4-7%)

 

以上、境界性パーソナリティ障害の治療について詳しく紹介しました。

参考になれば幸いです。

 

参考文献・サイト

[1]遊佐安一郎他(2007)『こころのりんしょう a(グレイヴ・アクセント)·la·carte 第26巻04号』(星和書店)

[2]境界性パーソナリティー障害の症状・原因・治療法・接し方|ヘルスケア大学

[3]Robert S Biskin他(2015) The Lifetime Course of Borderline Personality Disorder

パーソナリティ障害|厚生労働省 みんなのメンタルヘルス

Borderline personality disorder|MAYO CLINIC

岡田尊司(2004)『パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか』PHP新書

岡田尊司(2004) 『人格障害の時代』 平凡社新書

磯部潮(2003)『人格障害かもしれない どうして普通にできないんだろう』 光文社新書

 - パーソナリティ障害